行雲流水

 寒露の節、今年もサシバがやって来る。サシバは大陸や日本列島各地で繁殖、この季節に愛知県の伊良湖岬等を経由して鹿児島県佐多岬に集結、気象条件の良い日に風に乗って南下、フィリピンやインドネシア等に渡る。その途中ここ宮古で羽を休める▼サシバは秋を告げる使者である。小雨を伴って、爽やかな季節を連れて来る。DNAに刻まれた渡りの衝動とコンパス、そして弧を描く壮大な渡りは私たちを限りないロマンの世界に誘う▼何よりも、その精かんな雄姿がサシバの魅力である。風雨に耐えて飛来したサシバたちは、雲間から抜けだして島の上空に進入してくると、緩やかな曲線を舞い、鋭い直線を滑空して、しなやかに大空に絵を描く。ヒトは見上げて、飛翔の「自由」を羨望するが、サシバは地上を見下ろして変わりゆくものに心を揺らすだろう▼「月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人也」と書いた芭蕉もサシバの集団通過地点の伊良湖岬ではサシバの旅の姿に心をときめかせている。柳田国男から聞いた島崎藤村の「椰子の実」が流れ着いたのもこの地である。過ぎ去った日々への郷愁もまた旅の彩りである。グラウンドいっぱいに繰り広げられる運動会の練習、その上空ではいつもサシバの群れが輪舞していた▼サシバたちはこの島で投宿すると、羽づくろいをして次の飛翔に備え、星空に明日の旅路を思う。翌日は早朝に飛び立ち、仲間と呼びかけ合って群れを作り、南へ一直線に去って行く▼サシバは旅する私たちの仲間である。行く手の幸を祈りたい。

(200510/12掲載)

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