行雲流水

 昨年は悲惨なインド洋津波があった。今度はアメリカ南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」による洪水被害である。ハリケーンや台風、地震などの襲来は人間の力ではどうすることも出来ないが、備えを万全にして人命と財産を可能な限り守ることが政府の務めである▼ところが今回、被害者救援の遅れが被害を拡大、悲劇を増幅させた。とり残された高齢者や逃げる車も金もない貧困層が特に大きな被害を受けている。一週間過ぎても死者が数百人なのか数千人なのかさえ把握出来ない有様である▼貧困層の多く住む地域の堤防決壊の危険性は以前から指摘されていたが、十分な対策がとられなかったし、救援に当たるべき州兵隊の多くがイラク戦争へかり出されていて、災害を一層悲惨なものにした。背景に弱者への無関心が指摘されている▼「いま悲惨な状況におかれている人たちの多くは、すでに貧困と欠乏のなかで生きてきた人たちだ」と一議員は述べている。繁栄の中のアメリカで千二百万にのぼる児童が十分な食事をとれずに栄養失調や飢餓に瀕している(農務省年次報告)▼格差は国内だけでなく国際的にも拡大する一方である。いわゆるグローバル化によって途上国の貧困化は進み、多くの人々が飢えている。軍事費用の二%で世界の飢えと栄養不足は解消できると言われるが、各国の関心は「力の論理」に基づく軍拡競争の方へと向かう▼被災地では「戦争より被災者救援を」という声が聞こえるというが、その声は今日、世界に対する普遍的な叫びとも言える。
 

(2005/09/14掲載)

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