行雲流水

 「則天去私」は夏目漱石の言葉である。「自然に従い我執を捨て、あるがままを受け入れ、無駄なあがきや小細工を労するな」という。小人にはできぬ行である▼逆に「おためごかし」という俗語がある。表面は他人のためになるように見せかけて、実は自分の利益をはかることをいう。なんともいやな言葉だが、特に政治家や権力者はそうした側面が強いように思う▼ところで「敵の急所はわが急所」は万事に通じ、囲碁のみならず先手絶好の着手を説く。孫子は「善く戦うものは、人を致して、人に致されず」といった。「彼のなさんとするところを、先んじて我なせば、勝たざるごとなし」(立花宗茂)と同義である▼義経の鵯越や屋島の奇襲は機先を制し、源氏を勝利に導いた。その義経も壇ノ浦で平家を滅ぼし、京都に凱旋、さらに鎌倉に向かったが、いわゆる「腰越状」も頼朝の入れるところとならず、京都に戻る。それを境に、頼朝との仲はしだいに悪化する。頼朝からの刺客の襲撃を受け、義経は頼朝追討の宣旨を申し受ける。だが末路は悲しい。骨肉の争いというのは非道で残酷である▼ところで総選挙の結果ももう直ぐだが、どうやら総理の解散による機先が功を奏しているようだ。郵政民営化反対の謀反者から党籍を奪い刺客を送るなど、骨肉?の争いを見る。受ける側も自業自得か▼まさに政治は権力闘争であり、人間の最も醜い部分をさらけ出し、非情で容赦がない。この世の中「則天去私」などと悠長には生きられない。
 

(2005/09/09掲載)

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