行雲流水

 市役所指定の大掃除の日。通りの各家庭は祖父母から孫たちまで家族総出で内外の清掃に取りかかった。手始めは畳おこし。畳は横にして沿道の塀にもたせ長時間天日に干した。通りの塀には彼方前方まで延々と畳が並んだ▼やがて一bほどの棒を手にした家人の一人があらわれ隣り近所談笑しながら威勢よく畳をたたく音を響かせた。残りの家族は縁側や柱や畳に覆われていた床板の水拭きから家周りの除草など役割分担して励んだ▼昼下がり市の検査員がやって来て点検。検査結果がよければ「合」マークの札を家の目だつ場所に貼りつけた。結果が悪いと清掃やり直し。血相変えて検査員に抗議する家庭はほとんどなく後日の再検査を素直に受け入れていた▼そんな『一斉清掃』が年に二、三回(春季・秋季)ほど定例化していた。子供たちはさらに日々早起きすると竹ボウキを手に集結、通りの掃き掃除に励んだ。大人も子供も快適な生活環境づくりに努めることは当然の社会的責務と自覚していた▼学期末、修了式を終えて帰宅した児童たちはやがて内会長宅の庭に集った。内会長は役員共々一年間よく頑張りました!とほめると全員に平等に鉛筆やノートを贈った。「学事奨励会」と称しほとんどの内会で年中行事として催していた▼しかし今メディアから伝わってくるのは悲惨な事件の数々。かつてあった地域共同体の強い絆や地道に児童生徒の健全育成に取り組む地域単位の底力は殺伐とした情報の氾濫に埋もれてしまったのだろうか。

(2005/08/19掲載)

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