行雲流水

  ひげの画家久貝清次氏が第二十八回山之口貘賞を受賞した。選評によると、彼の詩は、お母さんに呼びかける清らかな詩、「柔らかくて暖かな詩」「優しく書いているがレベルが高い」。「凛々と歌います。宇宙にこだまするでしょう」と絶賛されている▼彼は五年前、四十五年ぶりに帰郷、母校鏡原小学校のガジュマルの下で版画展を開いた。その中には「PROCESS」と題する作品があった。NHK放送でも取り上げられた話題作である▼その展示会場で、数編の詩を読ませてもらい、その感想をこの欄に次のように書いた。「氏は詩画集の出版を準備している。詩と絵はそれぞれ独立した作品だが互いに響き合う。そこには、生命の讃歌とそれを超えたものへの畏敬、遍在する美の探求が感じられる」。あれから五年、この度の快挙には特別の感慨を覚える▼氏は高校を卒業すると、同期の坂井秀和氏と二人で上京するが、劣悪な就職先で食うや食わずの生活を送る。彼はガード下で似顔絵をかき、坂井氏はサンドイッチマンをして、食費を稼いだこともあったという。しかし、絵をかきたいという思いは強く、後に高島屋の宣伝部に属して、コマーシャル用の絵を新聞にかいたりした。現在は美術学校の講師を勤めている▼彼には、彼の好きな詩人山之口貘をほうふつさせるところがある。貘は放浪と貧きゅうの中でも詩作を続けた。純真さと、故郷への熱い思いにも共通点がある▼貘は第一詩集がでたとき、人目もはばからず大声で泣いたという。久貝氏の喜びを共感したい。

(2005/08/03掲載)

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