行雲流水

 きょうは国連が定めた「砂漠化および干ばつと闘う世界デー」である。砂漠化の原因は、干ばつなどの自然的要因、過度の家畜放牧や耕作、薪炭材の過剰な採取、不適切な灌漑や取水などさらには地球温暖化であろう▼それは総じて人災のように思える。その背景には人口増加、貧困などの問題がある。貧困は心の貧しさをも誘うが、富める国の方が、かえって心は病んでいるのかもしれない。自然の砂漠化より、人の心の砂漠化のほうがはるかに進行していまいか▼世界各地に蔓延化する自爆テロもそうだが、わが国の、過去に類を見ない犯罪社会の出現、まさに人心は荒廃の一途をたどっている。教室に爆発物を投げ込んだらどうなるのか、前後の見境がない高校生。今の人々は刹那的で、自分の行為がどんな結果を招き、自らの将来や周囲にどんな波紋を広げるか自覚できないようだ▼作家の五木寛之氏は、人情を水にたとえ、戦前は義理人情の世界でジメジメしていたが、戦後の日本は極端に乾燥しきっていて、情を排除したドライな社会を作り出した▼終身雇用から能力雇用にシフトしつつある雇用の分野をはじめ、医療や教育の領域でも情が失われた。もののありようや考え方がすべて乾いてしまった。乾いたものは軽い、壊れやすいし、捨てやすいと氏は評する▼青山学院高等部の「元ひめゆり学徒の沖縄戦に関する証言は退屈だったとの英文出題問題」、なんとも情けなくこんな不毛な話はない。これもまさに心の砂漠化である。

(2005/06/17掲載)

top.gif (811 バイト)