行雲流水

 特別養護老人ホームなど介護保険施設の職員を対象にした2004年の連合の調査で、3割が入所者に憎しみを感じ、調査時点から過去1年間に1割強が虐待、6割が入所者をひもで縛りつけるなどの身体拘束を経験していることが分かった。暗たんたる気持ちになる▼もちろん、多くの職員は、排せつや食事の世話、心のケアなど、献身的に行っている。その典型を、4月16日の本紙に掲載された高橋尚子さんのエッセー「老いてなお」にみることができる▼施設で働く高橋さんは書いている。老婆の徘かいはひどく、昼も夜もほとんど寝ない日が2日も続いた。誰かが傍についていたら安心して寝るかもしれないと添い寝をする。老婆の布団に一緒に入り、手を握ってみる。老婆は高橋さんの頭を撫でたり、布団を掛け直したりする。昔、母親として子育てをしたときの母性が老いてなおあることを高橋さんは知る▼母性だけではあるまい。色々な人間性、さらには長い人生にあった喜びも悲しみも、苦労も、心の底に深く積もっているに違いない。しかし、生産重視と効率が優先される現代社会では老人の内面についての関心は一般には薄い▼ともあれ、介護は量においても、質においても限りがなく、施設や家庭に於いても、社会や行政の立場でも課題が山積している▼あらゆる人が、乳幼児期から老年期までの各時点で、それぞれの時期にふさわしく生きられる社会こそが良い社会と言える。それなくしては「人間の尊厳」も単なる抽象的な概念にとどまってしまう。

(2005/04/20掲載)

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