行雲流水

 春たけなわである。「春」は草木の芽が「張る」意からきているという。英語の春はスプリング。ベッドのばねも水の湧きでる泉もスプリング、いずれも躍動を感じさせる▼いま、桜前線が日本列島を北上中である。沖縄の緋寒桜の時期はとうに過ぎたが、1歩外へ出ると、まさに時は春であることを実感する。クワデーサー(スマク)から一斉にやわらかい緑の若葉が萌え出ている。もともとは「みどり」は色の名前ではなく、逆に萌え出る若葉が緑という色の名を作らせた。「惜別の歌」の「みどりの黒髪」は、若々しい艶のある黒髪のことである▼道端の照葉木の表皮の膨らみからも若芽が萌え出ている。その芽は昨年の秋の間に用意され、冬を越す。「冬芽」と言われる。冬芽は寒い冬に耐えられるように鱗片(へんりん)でおおわれている。そこを突き抜けて、この時期若葉を押し出す。若葉は美しいだけでなく生命の力強さを感じさせる。松の芽立ちも美しい▼うぐいすの初音は2月ごろで、日に日に囀(さえず)りが上手になり、ホーホケキョと声を整えるようになってきたが、繁殖地に渡ったのだろう、最近は見うけない。鶯の囀りは雄の恋の歌、その美しさで雌を誘う。つがいが決り、繁殖を終えると、もとに戻ってチャッチャッと地鳴きをするようになるというから面白い▼タブノキはすでにたくさんの実をつけている。この実が熟するころには色々な鳥がやってきて、羽音や鳴き声、風のそよぎで山林は賑やかになる▼木の葉は濃さをまして、季節はうりずんから若夏へと移っていく。

(2005/04/06掲載)

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