行雲流水

 「お金は大事だようー」とテレビのコマーシャルは言っている。健康も大事である。しかし、健康については具体的に話がでて「同病相憐む」ことはあっても、「お金」のことは全くのそれぞれである。個人にとってはこわい世界だから、紙幣については持っている枚数こそが重要である▼それでも紙幣の肖像に関心が無いではない。国際連盟の事務局次長として活躍した思想家の新渡戸稲造や文豪の夏目漱石にかわって、樋口一葉と野口英世の肖像が新紙幣を飾っている。新鮮味に欠けるきらいはあるが、1人は女性の、1人は科学者の文化人ということで決まったようである▼ところで、樋口一葉は赤貧の中で小学校さえ満足に卒業していない。こうした境遇の中で、才能を一気に開花させ、明治女流文学の巨峰ともいうべき地位を築いている。しかし、残念ながらわずか24歳の若さで生涯を終えている。一方、細菌学者の野口英世は狂犬病やばい毒、黄熱病の研究で国際的に名をあげた。しかし、金に無頓着、借金癖があって多くの人に迷惑をかけている。皮肉にも、新紙幣に登場しているのは「お札」に縁のなかった2人である▼貧しくても偉くなれるという見本でもあるまい。「お金がすべてじゃないわ」、「持っている人はそう言うんです」(映画『ジャイアンツ』より)▼金は人間界からも自然からも本来の価値を奪って商品化する。拝金主義は横行し、凶悪犯罪が増えていく▼おそれがない、おごりもない、お札に本来の素朴な親しみが持てる世の中を望みたいのだが。

(2005/02/02掲載)

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