行雲流水

 「考える」という言葉のアイヌ語は「自らに対し自らのこころを揺らす」という意味を持つ語だという。頭で考えるのではなく、こころを揺らすこと、ここでは主体と客体のかい離がない▼一体感は人間同士だけではない。彼らはカムイ(神、自然)と一体となった生き方をしてきたから、客体としての「自然」という言葉さえ生み出さなかった。それでも、他の植物や動物の命を奪うことによってしか生きられないのが生き物としての宿命であった▼名高い祭にイオマンテ(熊の霊送り)がある。神の世界からきた熊を殺して、その霊を肉体から開放して神の国へ帰し、毛皮や肉はお土産としていただき、感謝するという儀式である▼しかし、この伝統的祭りは北海道庁からの禁止の通達を受けた。明治期には、日本風姓氏を名乗らせる「創氏改名」が強制されている。同化政策による言語に対する差別は沖縄とも共通する▼アイヌの「ユーカラ」と狩俣の「ニーリ」、輪舞するクイチャーとポロリセム、アイヌ文様と紅型等、両者はそれぞれの歴史と風土の中で優れた文化を生み出してきた。先日催された「アイヌ古式舞踊公演」と交流会は両文化の触れ合う絶好の機会になった▼民族としての誇りと多様な文化の尊重、交流こそが重要である。交流は「こんにちは」と始まったばかりだとも言える。ちなみに、アイヌ語で「こんにちは」にあたる語は「あなたの心にそっと、触れさせていただきます」という意味を持っている。

(2005/01/26掲載)

top.gif (811 バイト)