行雲流水

 におい分子と結合するにおい受容体を発見し、においの認識と記憶のしくみを分子と細胞のレベルで明らかにした米国のリチャード・アクセル博士とリンダ・バック博士が今年のノーベル医学・生理学賞を受賞する。多くの動物にとって、においは周囲を観察し判断する重要な手段である。産まれたばかりの哺乳類は、においで母親の乳頭を見つけるそうである(科学誌「ニュートン」から)▼ところで作家の辺見庸氏が面白いことを言っている「僕はいつも世界と自分の間にメディアという皮膜を感じている。その皮膜をときおり破ってくれるのが匂いなんだ」と▼われわれはとかくテレビでフランスを旅し、フランス料理に舌鼓を打つ様子を見て、匂いのない「もどき」を実体験のごとく思い込む。イラクの実情はテレビで見る以外に方法はないが、その硝煙のなかに身を置くのとは大違いであろう▼現代人はメディアを抜きにしては生きられない、それを「メディアクラシー」というようだが、クラシーとは支配体制などを示し、皮膜で覆われた世界のメディアに如何に対応するかを辺見氏は匂いにたとえて述べていると思う▼生まれて母親の乳房の匂いを知らないで育つ子らは不自然であろう。匂いもそうだが五感で感じる体験学習が今の教育には不可欠であると思うところでもある▼以前は遊びや家業などの手伝いの総てが体験学習であった。また自然の中で五感を働かせて、とけ込んでこそ自然への愛情も深まろう。

(2004/11/26掲載)

top.gif (811 バイト)