行雲流水

 「寒露」という言葉は、即「サシバ」を感じさせて、快い響きを持っている。この季節、大陸や日本列島の各地で繁殖したサシバは愛知県の伊良湖岬等を経由して鹿児島県佐多岬に集結、気象条件の良い日に風に乗って南下、南の島々に渡る。その途中、ここ宮古で羽を休めると言われている▼何がサシバに渡りの衝動を与えるのだろうか。誘うのは木々のそよぎ、流れる雲、遠くの海鳴り、それともコムクドリの波打つ群れか。導くのは体内時計や太陽コンパスの遺伝情報か、それとも季節風に乗ることの習性か。とにもかくにも、旅することは彼らにとっては生きることである▼サシバは島に秋の到来を告げる使者。吹く風は涼しく、過ごし易くなる。この頃の小雨に濡れると「鷹の風邪」をひくと言われた。サシバはまた過ぎ去った日々への郷愁をよみ返らせる。グラウンドいっぱいに繰り広げられる運動会の練習。上空ではサシバの群れが輪舞していた▼何よりも、精かんな雄姿の美しさがサシバの魅力である。風雨に耐えて飛来したサシバたちは、雲間から抜け出し島の上空に進入してくると、緩やかな曲線を舞い、鋭い直線を滑空、大空に文字を書く。例えば「あこがれ」▼一本の木に投宿すると、羽づくろいをして次の飛翔に備え、星空に明日の旅路を思う。翌日は早朝に飛び立ち、仲間と呼び掛けあって群れを作り、南へ向かって、いさぎよく飛んで行く▼今年は度重なる台風の影響が心配されるが、そろって元気に飛来してほしい。♪、タカドーイデンゴ。

(2004/10/13掲載)

top.gif (811 バイト)