行雲流水

 ギリシャのアクロポリスの丘にたつパルテノン神殿の映像がオリンピック番組の背景に度々映し出されている▼この神殿では、普通の建物に見られる幾何学的な規則正しさから故意に離脱、例えば水平な直線の場合中央が緩やかな曲線になっているという。人間の錯覚を考慮に入れたという説もあるが、必ずしもそうではないらしい。いずれにしても、パルテノンを建造した紀元前の人々が、そのほうが美しさを増すと考えた事実は驚きである▼作家の辻邦生は、文学の根拠を求める遍歴のなかでこのパルテノンに出会う。「こんなに美しいものが地上にある。こんな素晴らしいものを人間はつくったのだ。その美しさは単に美しいだけでなく、人間には高みへ昇っていく意志力と、目標とすべき一段と高い秩序が与えられているのだ」と考える▼高みを目指す。このことはオリンピックも同じである。標語「より速く、より高く、より強く」がそのことを示している。また、オリンピックが「平和の祭典」と呼ばれるのも、一段と高い秩序への寄与を期待されるからである▼しかし、近代オリンピックは何度も危機にさらされてきた。戦争による中止、ナチス・ドイツによる国威宣揚のための利用、政治の介入等があった。『黒い輪』という本は権力・金・クスリに汚染されたオリンピックの内幕を告発、訳者の言う「純真な人びとが決して読んではいけない物語」を展開する▼パルテノンは、1200年も続いた古代オリンピックからのメッセージを今に伝えているのではなかろうか。

(2004/08/25掲載)

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