行雲流水

 「8月6日、…雷鳴を轟かせる黒雲が市街の上空に湧きおこり、万年筆ぐらいの太い棒のような夕立がきた。雨はすぐに止んだが、放心状態になっていたらしく、いつ黒い雨に打たれたのかを覚えていない。…」井伏鱒二(いぶせますじ)の「黒い雨」は、原爆文学のジャンルを越えて心に残り、「ちちをかえせ/ははをかえせ」の序詩から始まる峠三吉(とうげさんきち)の「原爆詩集」は、まさに平和への叫びである▼1945年のこの日午前8時15分17秒、アメリカのB29エノラ・ゲイ号が広島上空9600メートルから世界最初の原子爆弾「リトルボーイ」を投下、広島は一瞬のうちに瓦礫の山と化し、20万余の人々の命を奪った▼8月9日の長崎原爆の日とともに、繰り返し、繰り返し、その悲惨な事実を語り継ぎ「原爆の日」を風化させてはならないと、最近特に思う▼ところで、地下を含むあらゆる場所での核爆発実験を禁止する「包括的核実験禁止条約」の発効も滞っているが、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮や特に米国の批准を望むのだが、米上院やブッシュ政権はこれを拒否している▼さらに保有する核兵器の安全性と信頼性を確保するためと称し、臨界前核実験を行い、小型核兵器の開発を画策する。核不拡散や核廃絶の叫びは核兵器保有国のエゴの中で翻弄され続けている▼核兵器を持たず、作らず、持ち込まずの非核三原則のわが国の国是も、同盟国アメリカの核の傘下という現実を思うとその矛盾に当惑するのみである。

(2004/08/06掲載)

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