行雲流水

 ナチスは、世界恐慌の混乱の中でドイツ国民の支持を広げ、議会で第一党となり、党首ヒトラーは1934年総統となり、独裁権を掌握する。以後、対外侵略を強行、39年第2次世界大戦をひき起こす▼彼は著書『わが闘争』の中で「ユダヤ人をこの世から抹殺、世界を制覇するのは、われらゲルマン人だ」と書いた。彼の狂気・妄想の危険性を見抜き、暴走をくい止めることができなかったことが悲惨な戦争を招いた。また600万人のユダヤ人が無残に殺された▼独裁者ヒトラーは、うそぶいている「大衆は女のようなものだ、自分を支配してくれる者の出現を待っているだけで、自由を与えてもとまどうだけだ」。彼の演説は、疑いや反論の余地を与えない「断定的主張」、徹底的なたたみ込みのための「繰り返し」、それに具体的な論議を避けるための「単純化」や「一般化」に特長がある(宮田光雄)▼大衆操作の天才と言われたナチスのゲッベルス宣伝相は、メディアを最大限に活用した。ラジオのマイクを自ら握ってナチスの宣伝を繰り返し、他の政治的・社会的な内容の放送を制限し、娯楽番組の比重を増して人々の目を現実からそらさせた▼議会制度も形式だけでなく、その内実が問われることを歴史は教えている。また、氾濫する情報の中から何が真実であるかを判断することがいよいよ難しくなっており、メディアリテラシー(情報を見極め、情報のもつ意味を読みとる能力)の教育の重要性が言われるようになってきた▼正しく知ることこそが現実を超える力となる。

(2004/05/19掲載)

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