行雲流水

 2000年の間、祖国を追われて離散していたユダヤ人の国家イスラエルが再建されたのが1948年である。しかし、その建国を認めないアラブ側と、圧倒的な軍事力で占領地を広げていくイスラエルとの抗争は絶えることがない▼ところで、イスラエルには「キブツ」と呼ばれる独特な形態の農村がある。生産・消費を共同で行う生活共同体である▼このキブツでの生活を経験した石浜みかるさんは、同国で、若者たちと語り合い、生活と社会を見て、その記録を『シャローム・イスラエル』にまとめている。彼女は、人々の信頼と連帯の強さを語り、農作業の後にベートーベンを聴く文化の高さに驚いている。友達への手紙に書いている「未来の夫の条件ね、デカーイ理想を持った、人間らしくのびのびとし、生きいきとした絶対に信頼できる人がいいわ。『イスラエル』みたいな人が」▼それから40年後、1人の若いカメラマンがキブツを訪れた。ところが、そこの若者たちは、戦争のたびに、勝った、勝ったと歓声をあげ、万歳を叫んでいる。その姿に彼は違和感を覚える。ある高齢者が彼に言う「あなたの写真が、もっと早く戦争の実相を伝えていたら、私の息子は死なずにすんだのに」(NHKラジオ深夜便より)▼戦争では、いつも若い者、弱い者が犠牲になる。「国益」や「指導層」の利権や権力維持のために。情報は操作され、憎しみが作られる▼大江健三郎は新著で若い人々に呼びかける「敵意を滅ぼし、和解をもたらす『新しい人』になるほかないのです」。

(2004/04/14掲載)

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