行雲流水

 故あって宮古病院新館の2階に通い続けた。ある日の帰途1階に下ってさらに地階へと下りかけた時はたと足が止まった。階段踊り場のくすんだコンクリート壁。その壁の高窓のガラス越しにのぞく栴檀(せんだん)の枝先に初春が小さく芽吹いていたからである▼数日前まで枝は寒暖不規則な日々が繰り返したからか冬枯れのままだった。台風14号の猛威で立ち枯れかと惜しんだりもした。一辺が1メートルほどの正方形状窓枠を額縁に見立てると構図よくおさまっているそれは一幅の写生画のように美しく見えた▼今新芽は大自然の躍動感みなぎる摂理に導かれて新緑鮮やかな羽状複葉へと生長している。そしてどの枝にも可憐な5、6弁の薄紫色の花がやさしく咲き誇り訪れる者にも確かな生命感を体感させている▼心身の安静や平穏を旨とする医療施設内に例えばフクギ等がそびえ立つことはそぐわないように公共施設での緑化は施設の設立目的や機能に即して展開されることが望ましい▼この視点を勘案することなく樹木や草花を普及させるはずの大型量販店が広大な駐車場を緑陰1つもない殺風景なアスファルト面で覆いつくしているのは皮肉としか言いようがない▼宮古空港駐車場が全面アスファルトから現在のブロック敷き緑化と緑豊かな樹木に包まれるようになったのは市民委員の提言を県の担当者が真摯に聞き入れ原案を変更したからである。地域に根ざす商活動にとっても潤いある環境づくりに寄与するこの真摯な心構えは必要不可欠である。

(2004/04/09掲載)

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