行雲流水

 4月の初めがエイプリル・フールで堂々とウソをついていいとは何とも愛嬌がある。年度初めで出発と出会い、入学、就職等喜びと希望に溢れる月であることが落とし穴である▼沖縄本島に住む娘家族の親しい友人に居酒屋の経営者がいる。家族で度々ご招宴にあずかることもあり、「きょう猪肉が入った、猪鍋を届けるので夕食は準備しなくていいよ。そういえば坊や今度入学だったよね」との落としに、すっかり乗せられたこともある▼「四月馬鹿」「万愚節」などとも呼ばれるが、キリストが生前、ユダヤ人にバカにされたことを忘れないための行事で、万聖節(諸聖人の祝日)に対して言うとある。知らぬが仏でよかったのではと、その由来にびっくり▼話が変わるが、きょう2日は連翹(れんぎう)忌(詩人で彫刻家の高村光太郎の命日)とある。中学か高校かで習った「道程」の「僕の前に道はない 僕の後ろに道ができる…」が浮かぶ▼同時に何故か最近読んだ、山之口貘の「座布団」「土の上には床がある 床の上には畳がある…」を連想する。この2つを対比すること自体おかしく、ベクトル(大きさと方向の量)が逆であるように思う▼「精神の貴族」と呼ばれる貘だが、どちらかと言えば「雨にもまけず…」の宮沢賢治に似ると思う。漠とした話に終始するが、時代の脚光を浴びた高村光太郎とは違い、雑草のような強さ、虚心坦懐で飾らない、そして実直でウソのない、その気質と詩風に共感を覚える。

(2004/04/02掲載)

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