行雲流水

 「印象的な語で綴られた説教、演説、政治的雄弁…を聞いている時はわれわれは批判的であることを全くやめて話し手が思う通りに興奮したり悲しんだり喜んだり怒ったり…言語的催眠術に支配されている」(S・I・ハヤカワ「思考と行動における言語」)▼去る3月20日はイラク戦争開始からちょうど1年目だった。そして今米英においては両国首脳や高官が自国民または世界に対して発した『言語的催眠術』の真偽が鋭く検証されている▼1年前の3月17日ブッシュ米大統領は対イラク最後通告として「イラクが大量破壊兵器を保持し隠しているのは間違いない」と断言した。同国のパウエル国務長官も国連安保理で「イラクは推定100−500トンの化学兵器用物質を保有している」と演説▼ブレア英政権は「イラクは生物・化学兵器使用を計画。一部は45分以内に配備可能」と公表した。しかし米国イラク調査団のデビッド・ケイ団長は開戦時イラクに大量破壊兵器は存在しなかったと考えていると否定している▼テネット米CIA長官もイラクで生物・化学・核兵器のいずれも発見していないと追認。ポーランド大統領は「われわれは(大量破壊兵器の)作り話でだまされた」と(米英)を厳しく批判した▼人権擁護団体国際アムネスティによるとイラク市民は開戦で1万人以上が殺害され報道されない死者は現在も数多いという。それでも超大国大統領の言語的催眠術は今なお衰えず「世界はより良い方向へ変化している」と言い切る。

(2004/03/26掲載)

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