行雲流水

 豊島貞夫氏の写真集『風雪の記録』(復帰前・沖縄の教育)に強い感銘を受けた。教育者であり、写真家でもある著者が、長年にわたって撮影してきたフィルムを通して、風雪に翻弄された復帰前の沖縄教育の諸相を記録したものである▼劣悪な条件の中でも、教育には「希望を目指す輝きがあった。ひたむきさがあった」と氏は書いている。写真がその事を如実に物語っている。教育の原点を想い起こさせ、考えさせられる写真集である▼真剣な眼差しを教師に向ける子供たち、草花を慈しむ子供たち、写生をする姿にも、素朴なひたむきさが感じられる。竹馬で帰る児童を見送る分校の先生、島の人におんぶされて海を渡る校長先生、人気のない家に声をかける校長。子供たちと父母と教師は深い信頼で結ばれている▼1965年、風疹によって聴覚に障害を受けた子供が多数生まれた。そして、その教育には早期教育が必要だということで親も教師も必死になった。対面指導の様子や、指導方法を自らも学ぶ母親の姿が描かれている▼度重なる米軍人による児童生徒の被害に対する県民の抗議行動、教公二法問題、沖縄の苦悩と不屈の意志が刻まれた屋良朝苗氏の顔など、写真は解説とともに復帰前の真実を感動的に伝えている▼写真に添えられた「子どもは新しい光をつれてくる」という言葉が著者の教育観や教育愛を象徴的に表している。そんな眼差しで撮影されたからこそ、1枚1枚の写真は一瞬のうちにものごとの本質や真実を見事に捉えているのだと思う。

(2004/03/02掲載)

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