行雲流水

  「門松は冥途の旅の一里塚、馬かごもなく、とまりやもなし」、よりも「下の句」を詠みかえた「めでたくもあり、めでたくもなし」が人口に膾炙していよう▼新年は大方「花の色は移りにけりな…」などと、のどかな百人一首が浮かぶのだが、今回は何故か暮れから正月にかけて一休和尚のこの狂歌がしきりに脳裏に浮かぶ。老化の性ばかりではなく、世相の性かと、思い至り慄然とする▼新春は新たな気持ちになりたいと思い旅に出た。未だ経験のない「砂むし温泉」を体験すべく指宿にした。「白波乃下に熱砂の隠さるる 不思議に逢えり指宿に来て」の与謝野晶子の歌の如く、波打際の砂を指でまさぐると、やけどするほどの熱湯がわき出でる不思議に逢う▼元旦は幸い快晴で、「菜の花マラソン」の地は早くも満開、花畑を縫うように、まずは開聞岳へとタクシーを走らせた。ここからの眺めがいいですよと言う運転手の案内に従い(内心、待ち時間の増し料金が気になる、さもしい心を押えながら)車を下りて山川町南端の岬、長崎鼻まで歩いた▼開聞岳の眺めもさることながら、「しんしんと肺碧きまで海の旅」他二句の刻まれた篠原鳳作の句碑を発見してびっくり、そうだ、沖縄・宮古の方角に向いた氏の句碑があったのだ、と思い起こし感激を新たにした▼池田湖の天然記念物、二十|ほどの大ウナギにもたまげたが、ホテルでは薩摩焼酎の名酒「森伊蔵」を味わい、いつになく豊かな気持ちの迎春であった。

(2004/01/09掲載)

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