行雲流水

  トップダウンとは経営方針などが上から下へ、逆に意思決定が下から発議されることをボトムアップというが、これは政治や企業等におけるシステムかと思いきや、科学技術の世界にもある▼川合知二・阪大教授によると、ナノテク製造技術(1ナノは十億分の一)には、物質をどんどん削り込んでいく「トップダウン」と逆に原子レベルから組み上げていく「ボトムアップ」の手法がある▼次世代半導体の開発などに利用されるトップダウンは、設備費が高く、大手企業向けで、体力が乏しい中小企業には、ボトムアップが適しているという。超微細技術の手法が大企業、中小企業のシステムを象徴しているのは、造化の妙ともいえる▼因みに、パソコンで記憶媒体の円盤(ハードディスク)から、情報を取り出す針(磁気ヘッド)と円盤の距離は十ナノメートル。針をジャンボジェット機とすると、地上から新聞紙一枚分の厚さの所を飛ぶのと同じで、針と円盤の距離を十ナノにしないと機能しないというから摩訶不思議▼ナノテクとバイオテクの融合、ナノレベルでの先端医療の開発。ITやバイオで一人勝ちの米国との競合は物造り国日本の威信がかかるというが▼封建時代でも上意下達だけでなく、下意上達もあった。信長より家康の方がボトムアップ的で、平和的だ。イラクの日本人外交官の死は、極めて衝撃的だが、テロに屈せずの、このジレンマ、綱渡りならぬ、「ナノワタリ」という造語でこの危機を表現したい。

(2003/12/05掲載)

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