行雲流水

 台風14号による被害農家の復旧の現状が気になり出かけた。バブル崩壊後の不安定な経済状況下では建設自体厳しい費用の捻出を余儀なくされたであろうビニールハウスの栽培施設等は今なお随所で無残な姿をさらしている▼本体は倒壊寸前に傾斜しビニールは跡形もなく引きちぎられて遥か彼方の木々の高枝に絡みついたままである。一農家では対応しきれない広大な区域の原野や雑木林などに飛散している▼被害の惨状を目のあたりにした園芸農家のUさんはその時の心境を目を潤ませながら「頭の中が真っ白になって手足も動かなかった。目の前の光景が夢か幻の世界に思えた。ようやく現実に戻った時自分の人生はもう終わったと感じた」と語っていた▼専業農家を志しそれなりの知識も経験も蓄積して念願の施設園芸の緒についたばかりだった。壊滅的な痛手を被った作物の再生に加え施設の膨大な修復費の確保などUさんの前途にはさらに二重三重の苦難が待ち受けている▼災害の被害額は調査が進むにつれて増大。しかし被害生産者個々の意気消沈した実態の詳細は表に出てこない。敗北感から立ち上がることは容易ではなくUさんは特例ではない。事例は宮古全域に及んでいると実感した▼平常でさえ若年世代から敬遠されている農業後継。Uさんは告げた。「挫折し離農する農家は少なくないよ」深刻な予見である。さらに続けた。別の国が破壊したイラク復興には素早く1650億円の資金拠出を表明していながら私たちには…と。

(2003/10/31掲載)

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