行雲流水

  雨後の筍(たけのこ)のごとく凄じい勢いで続出する外食店。これだけの人口規模でよくもと他人事ながら気を揉むが家族そろっての外食店夕食は月に3〜4回と得意げにいうわが国経済の高度成長真っただ中で何の物不足もなく育ってきた世代の言葉を聞くと納得できる▼家庭にあっては子供達は外食店の味覚を要求し親たちは迎合してお袋の味に象徴される家庭独自の味を衰退させてしまう。東北で立ち寄った郷土料理店の主人は「この頃の若者は土地の気候風土や住人が時間をかけて育んできた郷土料理や伝統料理には見向きもしない。直ちにラーメンと注文する」と嘆いていた▼祝祭日の料理は手っ取り早くて手間が省けるから食堂やレストランに依頼する。小中学校の先生方によると遠足の弁当まで親の情愛こもった弁当ではなく市販のものを持参する児童生徒が増えつつあるという▼大量生産の仕組みの中で容易さ便利さを追い求める結果苦労を重ねて事にあたることなく手抜きさえ平然と行う風潮が生み出されている。その穴埋めや代償として代理業者や代理産業が急成長してきた▼行動は心情の変調につながる。夜なべして我が子の弁当づくりに励む母親の後ろ姿に感謝と愛情を抱いていた子も市販の弁当を手渡されては母親に対するありがたさは失せてしまうに違いない▼社会の構造は回り道を避けて合理性便利性等を中心に据えた生活環境へと変容している。その狭間で人の情の優しさや思いやり感謝等は蚕食されつつあるようだ。

(2003/09/19 掲載)

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