行雲流水

 平良市総合博物館(久貝勝盛館長)の第四十五回特別企画展「宮古の万葉植物と野鳥」は、多くの市民に感銘を与え、八月末日にその幕を閉じた▼地域の動植物を通しての万葉の紹介は、万葉の世界への親近感や関心を触発させた。また、宮川弘氏による記念講演によって、その理解は深められた。さらに、膨大な野鳥の資料は、あらためて宮古の自然の豊かさを感じさせるものだった▼千年余の時空を隔てた万葉の世界と私たちの身近な自然とを結びつけるこの壮大な企画は、当初から当圏域のみならず県内外で大きな反響を呼び、多くの情報や資料、激励が寄せられた▼多くの文献に当たったり、東京の国分寺万葉植物園に足を運んだりして、当該動植物を特定、実物や標本を搬入、関連する歌を紹介、展示するなど、準備には大変なご苦労があったに違いない。宮古野鳥の会をはじめとする研究者の地域研究の確かな蓄積が根底を支えたし、多くの市民の協力もあったと聞く▼つばめの方言名はマミマーリャである。豆を蒔く時と収穫の時に見回りにくるからである。これを例に、昔の人々の自然との豊かな触れ合いと、観察力と表現の確かさの説明を受けた。「淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば―」の千鳥の方言名は四つもある。私たちの祖先はその鳴き声に何を思ったのだろうか。身近な自然を感じながら、万葉の美や、その心を思い描くことは楽しいことである▼平良市総合博物館は、地域住民の学習の場及び宮古文化活動の拠点になることを目指している。期待はいよいよ膨らんでくる。

(2003/09/03 掲載)

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