行雲流水

 何の準備もなく事が起こってからあわてて対策を打ち出すことを中国では『臨渇掘井』と表現するという。訓読み(日本語読み)すると「渇に臨んで井戸を掘る」となる。のどが渇いてあわてて井戸を掘るの意▼守屋洋氏は著書『中国人の発想』の中で医学の古書『素問』の一節「病スデニ成リテ後コレニ薬…スルハ、タトエバ渇シテ井ヲウガツ…ガゴトシ」が出典で窮地に立ってからではもう遅いと注釈している▼だから「備えあれば憂いなし」なんだ。わが意を得たりとほくそ笑む総理の顔が迫ってくる。しかしそれは現状にそぐわない仮定の論理でしかない。国民にとってそんな実感はとても持てそうにない▼国民の多くは明日の実生活が描けない最悪の経済不況の真っただ中で暮らしており備えようにも備えられない厳しい現実を抱えているからである。社会保障制度の改革と称して年金の給付費はすでに抑制されている。現役世代の保険料1・5倍の引き上げも予定されている▼しかも年金の受け取り額(現在は現役世代の手取り賃金の約6割)は将来的にはさらに減額されて5割台になるという。塩川財務相は「生産性のない者は所得代替率40%でもよいのではないか」(4月の経済財政諮問会議)とまで言い放った▼地方自治体にとっても義務教育・老人医療・保育所など関係の深い国庫補助負担金の削減・地方交付税の見直しなど避けられない多難な舵取りが急迫している。備えられない現実。憂いなしどころかますます募るばかりである。

(2003/07/11 掲載)

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