行雲流水

 7月1日は「童謡の日」である。このところ、童謡や唱歌、叙情歌が静かなブームを呼んでいる。それは、単なる郷愁というより、人生の色々な意味や感慨が込められていて、人の心を揺さぶるからに違いない▼先日、ある告別式で『えんどうの花』や『なんた浜』などの長包の曲が流れていた。故人は、宮良長包に教えを受けた事を誇りにし、晩年はこれらの歌をよく口ずさんだという。去来する思いを歌に託しておられたのだろうか▼阪神大震災のときは、各地から多くのボランティアが救援に駈けつけた。ある避難所では歌がテープで流された。そのうちに何人かが口ずさみ、やがて全員の合唱になった。生きる望みを与えた歌は『春よ来い』だった(読売新聞『唱歌・童謡ものがたり』)▼『春よ来い』を作曲した広田龍太郎が幼児期を送った高知県安芸市は「童謡の里」づくりを進めている。数名の仲間と歌碑めぐりをしたことがあるが、公衆トイレでも、『雀の学校』や『叱られて』など、広田の曲が流れていた▼さよならさよなら椰子の島、お船に揺られて帰られる、ああ父さんよ御無事でと、今夜も母さんと祈ります。『里の秋』の3番である。戦後、NHKの外地引き揚げ者を激励する番組のテーマ曲であった。月なきみ空にきらめく光、ああその星影希望の姿、人智は果てなし無窮のおちに、いざその星影きわめも行かん。この『星の界』を天文学の歌だ、とある天文学者は語る▼唱歌・童謡は、思い出や郷愁、人生の哀歓とともに、希望や憬れ、理想を歌う。

(2003/07/09 掲載)

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