行雲流水

 養老孟司氏の「バカの壁」が、ややこしいが面白い。「知らない」というより、「知りたくないと」と自主的に情報を遮断するのを「バカの壁」というそうである▼Y=aXの数式で人の行動を構図化する。Yは行動(出力)、Xは情報(入力)で、係数aは「現実の重み」、その人にとっての「関心の量」だそうである。ただ客観的事実だけでなく「観念」も信じる人にとっては「現実」である▼出力を決めるのは脳であるが、その人の行動に影響を与えるものだけが、その人にとっての現実であり、現実は人によって違い、脳の数だけあるというのだが▼係数aが無限大である場合が原理主義だと説く。係数aが無限大とは、それ以外の現実はあり得ないから、絶対を意味し、Yも絶対となる。そこで、原理主義を唯一絶対の価値観による支配と規定すると、様々な動静が原理主義に見えてくる▼テロ組織もアメリカ主義も、イスラム教など一神教もカルト集団も、あらゆる教条主義も、はたまた金正日主義もそれぞれ「十割の正義」を貫こうというものだ。現実の相違を肯定しない限り原理主義はなくならない▼アメリカがいくら正義を叫ぼうと、アラブの側には係数ゼロがかかっているから無意味であり、同様にアラブの大義はアメリカ人の耳には届かない。いわゆる「バカの壁」である。「俺の現実と、お前の現実は違うんだ」ということを認めるところからしか共通の了解は作れない、「話せばわかる」というのは大嘘だ、と説く。

(2003/06/20 掲載)

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