行雲流水

 「海よ、僕らの使う文字では、お前の中に母がいる」。三好達治の詩の一節である。海の圧倒的な水量と深さと広がりは、恐れと共にロマンを感じさせる。何よりもそこは、地球上の生命の故郷である▼陸上の植物にくわしい川上勲さんに、海に棲む魚の話を聞いた。ある時、彼は佐良浜漁港でニジハギ(ツングー)を見て、そのあまりの美しさに感動、魚への関心を深め、病みつきになったという▼クロハギに、白いめがねをかけたようなメガネクロハギと、そのめがねから口元にかけて涙を流しているように見えるナミダクロハギがいる。「神様は怠けて、新しい魚を造れなかったので、メガネクロハギのめがねから口元にかけて一筆入れて、新しい魚にした」などと、彼は物語をつくって楽しんでいる▼海面は上から見ると青く見え、水中から見ると白っぽく見える。目立たず、上下の敵から身を守るのに都合がいいので、水面近くには背は青く、腹の白い魚が多い。また、色とりどりのサンゴの林の中には、縞のある鮮やかな色の魚が多い。その美しさを称え、「さんご礁の海に潜らないのは一生の損だ」とダイバーたちは語る▼魚は「海の幸」でもある。水銀汚染のため、ある種の魚料理は週2回までが安全だという。海は35億年かかって徐々に出来あがり、生きものたちを豊かに育んできた。たかだか数10年でヒトは、これほどまでに海を汚染してきた。何という不遜▼貝の博物館「宮古島海宝館」にコクトーの詩が掲げられている「私の耳は貝の殻/海の響きをなつかしむ」。

(2003/06/11 掲載)

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