人間が人間のコピーを作るなどは、人間が万能の存在を意味し、神や仏、あるいは天の摂理が失われることであり、「神を殺す」ことに他ならない。「神を殺す」ことは、他ならぬ人間を殺すことでもある。との論がある▼ダイナマイトの発明は、まさに産業発展の起爆剤となったが、反面、強力な兵器として利用され、多くの罪のない生命を奪った。科学技術の進歩には常に「光」と「影」の側面が存在する▼生命の設計図といえるヒトゲノム（全遺伝情報）を完全解読、ＤＮＡを構成する塩基が織りなす約28億3000万文字の遺伝暗号を読み切ったとして、「すべての人々がより健康でいられる未来に向けて重要な第１歩を踏み出した」と関係六カ国の首脳が共同宣言を発表した▼今後は、ゲノムに書き込まれた遺伝子が作るタンパク質の機能の解明など、生命研究の進歩だけでなく、患者１人ひとりの遺伝体質に応じた医療の開発などに期待がかかる▼既に、ガンや先天性免疫不全などの遺伝子治療、ホームページで「Ｗｅｂ検診」を申し込むと、約２週間で、病気に罹る危険度がわかる、肺ガン、食道ガン、循環器疾患、アルツハイマーなどの遺伝子診断が可能だ▼ゲノム解読は、ゲノム創薬など遺伝子情報産業の躍進が予想される反面、個人の遺伝情報に基づく雇用や保健などの差別は起きないか、遺伝子操作による生命倫理の問題等、「生命科学の世紀」と呼ばれる今世紀は、「影」の克服が人類最大の課題でもあろう。 |