行雲流水

 2003年4月7日は、手塚治虫がマンガ『鉄腕アトム』のなかで設定した主人公アトムの誕生日である。作品は50年前に生み出されたものだが、今なお人気は衰えず、各地で誕生を祝う行事が行われ、東京都新宿区はアトムを新宿区未来特使に任命したという▼手塚治虫は著書『僕のマンガ人生』のなかで書いている。戦争のとき、ひもじい思いをしたり、空襲で何度かもうだめだという思いをした。だからこそ、生きているありがたさ、生きることの尊さを訴えたい。それと同時に生きていくことの苦しみも読みとってほしい▼この「生命の尊厳」を守るというメッセージは「自然の保護」、「生きものへの讃歌」、「科学文明への疑い」、「戦争反対」等をテーマに描かれていく。また、手塚氏の妹は語っている「ユーモラスで、ほほえましいおふざけも兄のマンガのもうひとつの軸だと思う」▼アトムが誕生、つぶらな瞳を開いたとき、そこは21世紀で、4大文明発祥地の1つメソポタミア文明の地(現イラク)では戦争があって、1発6000万円もする巡航ミサイルが撃ち込まれ、多くの人の血が流されていた▼手塚氏の文明批判は、見かけは平和を享受している私たちにも向けられている。「不安があり、人心はすさんでいる。体制のなかで処世術が優先して、人生の喜びや未来への期待は次第に失われてきている」▼それでも、手塚氏は子供たちを未来人と呼んで、地球全体を1つの運命共同体として捉えうる人生観を持った子供たちの出現に期待をかけている。

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