行雲流水

 「美しい物語」と言う時、たとえば無償の友情や人類愛など、深い感動と共感を呼ぶ人間の営みを思い浮べるのだが▼数年前ヨーロッパでベストセラーになった本『世界でいちばん美しい物語』は、150億年にわたる宇宙・生物・人類の誕生と進化を一大叙事詩として、1つの鎖でつないでみせる。究極の「美しい物語」というわけである。この物語は単なる空想の産物ではなく、証拠と論理の積み重ねによって体系づけられている故に、私たちの想像力をかきたてる▼ほかでもない、物語は私たち自身の物語である。「私たちは自らの奥深くこの物語を秘めて生きている」。私たちの存在に、宇宙・生命・人類の全過程が必要であったと考えることは楽しいことである▼単純なものから複雑なものへと進化は進み、宇宙的、化学的、生物学的段階を経て今や進化は技術的・文化的段階にさしかかっているという指摘は、コンピューターによる人間の能力の拡大と社会の激変1つを考えても納得できる▼これまでの進化と異なり、短期間に自らの意志で進化しうるということは、その結果に責任を負うということでもある。「正義」の名による国益、力の論理、貧困を再生産するシステム、情報の操作、文化の多様性の否定、環境破壊等に正しく対応できる新たな進化が待たれる▼いわく「意識を持ち、好奇心にあふれた存在が、狭い地球にひしめきあい、自らの力に脅かされつつ、空を見上げて不安げに問いかける。この美しい世界の物語はこの先どうなっていくのだろうか」。

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