健康食品ブームの中で、ココアやチョコレートが人気を呼んでいる。厄介なことに、おいしい物の多くが健康上の理由で敬遠されがちだが、ココアやチョコレートはおいしい上に、健康にも良いという▼老化や動脈硬化を促進する活性酸素の働きを抑える抗酸化物質であるポリフェノールを多く含んでいるし、何よりもおいしい。香りも良く、ストレスを解消したり脳を活性化させる効果が実証されている。ちなみに、原料であるカカオの学名はテオプロマ・カカオで、テオプロマとは「神の食べ物」という意味である▼まつわる話も楽しい。最近、あるつどいで出た話を紹介しよう。昔、イギリスで、王は税金を上げることを画策していた。領主である侯爵の夫人ゴディウァーは、「民は今でも税負担に苦しんでいる。これ以上負担を重くしないで欲しい」と訴えた。怒った王は「汝が、素っ裸で通りを通ったら、そうしよう」と応えた。夫人は意を決して裸で馬に乗り、通りに出た。ところが、住民は通りに面した窓々を閉めて、だれ１人夫人の姿を見ようとはしなかった。王は考えを変え、計画を断念した▼喜んだ人々は記念に極上のチョコレートをつくり「ゴディウァー」と名づけた。この銘柄のチョコは今なお市販されている▼しみとおる芳香と美味。だから、チョコはバレンタインデーの贈り物にふさわしい。それは愛のキューピッド▼寺田寅彦は、宗教は酒に似ている、コーヒーは洞察と認識を透明にする点で哲学に似ていると、書いた。チョコレートは芸術である。 |