行雲流水

 NHK大河ドラマ「武蔵」(原作吉川英治)は黒澤映画「七人の侍」のパクリだとの酷評が「週刊文春」にある。第一回の盗賊と戦うシーンが「八人の侍」(原作は武蔵と又八の二人)になるなど多くの描写例を挙げてパクリ説を強調する▼「荒野の七人」などパクリ的現象は、もはや巨匠黒澤の手法が古典化したと見るべきか。四回までの「武蔵」は、テンポの良さと、原作にとらわれない斬新なタッチと見るが▼剣禅一如の境地を求めるのが吉川・武蔵だが、その武蔵像は、直木三十五と菊池寛・吉川英治らの論争から生まれたともいえよう▼時代劇の定番で、役者誰某の「武蔵」「お通」と語り草になるほどだ。「お通」は歴史上の人物ではないが、織田信長の妹「お市」役と同様当代随一の美女が演じるものと勝手に決め込んでいる。今回は郷土出身の女優仲間由紀恵が佐々木小次郎の恋人役として「八重」「琴」(原作にはない)の二役を演じるのも興味深い▼自著「五輪書」序に「六十余度迄勝負するといえども、一度も其利をうしなはず」とある。武蔵と同代の渡辺幸庵「対話」の引用「但馬にくらぶれば、碁にていえば井目(せいもく)も武蔵強し」が司馬遼太郎著「真説宮本武蔵」にある。将軍指南役・柳生但馬守がそんなに弱かったとは思えないが、武蔵が強かった証か▼五輪書は達意の書、書画、彫刻家としても一流で、まさに「一芸は道に通ずる」である。ともあれ、武蔵の「二天一流」で不景気のこの世を切り開けぬものか。