行雲流水

 新年早々、親しい人たちと近況を確かめあうことは嬉しいことである。小学生のころ当地を離れてヤマトゥで生活しているいとこから次のような便りをもらった▼「昔々、母に手を引かれて通ったおじいちゃん・おばあちゃんの家、石垣に囲まれて庭に通じる畑のさとうきびをよくいただきました。畑の奥のトイレにはブタがいて、おしりをかまれないかと、びくびくした…、そんな懐かしい思い出がふとよぎりました」▼豚もいなくなった一時期、改造されないままのトイレの光景はそら恐ろしいものだった。高校生の時、さとうきびを畑から失敬、食することは私たち友人仲間の楽しみであった。今でも、時折話題になる。こんなことでも、話し合える思い出を持つことは幸せなことである▼今の子供たちの生活環境は見違えるほど良くなった。色々な物があって便利になった。しかし、子供たちの生活の希薄化が気になるところである。子供たちは自然や人から離れてテレビゲームなどの世界で遊ぶ。所詮それはバーチャル(仮想現実)の世界である▼家族の絆を描いて感動を呼んだ『北の国から』の倉本聡は、五感を使うことの大切さを説き、富良野で得た創造の秘密を語る。また、児童文学家の松居直は、豊かに感ずることが大切で、知識は後からついてくると、語っている▼今の子供たちはサッカーを楽しむ、ピアノが弾ける、知識も増えた。素敵なことだ。だが、大切な忘れものをさせてはならない。『武蔵』のテーマは「野生」だという。時代の要請かも知れない。