各地でブンミャー復活
手績みの技が人間国宝に


今月16・17日に初の展示会

宮古苧麻績み(ブーンミ)保存会


 女性たちの手業で生み出されたブー(麻糸)、その原材料で四百年余の歴史を持ち国の重要無形文化財にも指定された宮古上布が織られる。ひところは年間一万八千反もの生産があったにもかかわらず、戦後は化学繊維に押され今では約千分の一の二十反にまで落ち込んだといわれる。最盛期には、大半の家に地機や高機があり、女性は野良仕事の合間に機を織った。そして村の集会場(番所)はブンミャーと呼ばれ、女性やお年寄りたちがブーンミ(麻績み)をした。そのブンミャーがいま復活しつつある。宮古上布減反の危機を憂えた女性たちが原材料のブーの生産に乗り出したからだ。こうした手績みの技術が国の選定を受けることになり二〇〇三年七月に宮古麻績み保存会(下地正子会長、以下保存会)が文化庁より認定された。あれから三年余、五十四人の会員を中心に、あらゆる場所でブーンミが行われている。(佐渡山政子)
 




 教室では夜なべでブーンミが行われる。夢中になってつい時間を忘れてしまう(平良の下地正子さんの教室)

 


ブーの原料となる麻(カラムシ)



根付けから約35〜40日後に収穫できる



繊維を取り出すのにアワビ(ミミ貝)が使われる

 
 
葉を落とし、表皮から繊維を取り出す作業



採り出した繊維は陰干しされる



亜麻色のブーの出来上がり

 一九七五年の文化財保護法の改正で、保存措置の必要のある技術を選定し、保存継承していこうという文化庁の制度により団体として認定された保存会。沖縄県内で保存技術に選定されているのは「琉球藍製造」と「組踊道具制作」の二件だけだという。これまで、織りだけが注目されてきた宮古上布、それを生み出す女性たちの手業が疎んじられてきた。
 減反の要因も績み手の減少によるものと気付いた旧平良市が〇一年、文化庁国庫補助で伝承事業を実施、平良と下地、友利に手績み保存会が結成した。翌年、連絡協議会が発足、さらに宮古圏域に呼び掛けて現在の保存会になったのが〇三年。教室は下地に十、平良二、城辺一、上野二、伊良部一、多良間一の計十七教室があり、それぞれの教室でブーンミが行われている。今月十六、十七日にはこれまでの成果を発表する初めての展示会が下地公民館で開かれる。
 会長として畑を提供し、麻(和名カラムシ、イラクサ科の多年草)を栽培しながら会員をまとめる下地さんが宮古上布に魅せられたのは今から七年前。「市婦連の会長をしていたころ、市役所のロビーで宮古上布展を催すとのことで世話役を引き受けました。初めて身近に接する宮古上布に感動、こんなすごい物がこの島にはあったんだと。私は生まれが竹富島で、小さいころ、母が織物をしている姿を見て育った。すぐに共感できた。そして、孫たちに先祖の素晴らしさを伝えたくてかかわりました」と話す。
 〇四年十月には、保存会の会員十四人が韓国を訪問、麻を通して日韓交流を行った。というのも、韓国の韓山(ハンサン)に 苧麻の織物があり国の重要無形文化財に指定されている。現地ではモシと呼ばれ、薄く透けることから、「蜻蛉の羽」にも例えられるという。韓国の民族衣装チマ・チョゴリの夏物や男性のシャツなどに利用されている。やはりここでも後継者不足で行政を挙げて保存継承に努めている。一行は、この旅でさらに宮古上布の良さを再認識したようだ。
 下地会長の教室は十一人のメンバー。今年最後のブーンミ教室となった十一月二十一日午後八時から、会長宅に集まりブーンミが始まった。会長は毎回ごちそうを作ってみんなを待つ。みんなもそれぞれ一品を持ち寄り、談笑しながら夕食会をした後で作業に入る。そのうち、夢中になると息でも詰めているかのように静かになる。ひと息ついてまた笑い声が。こうして、夜が更けていく。下地会長は「昔のおばあたちは、ブーンミしながら歌を歌ったりしたんでしょうね」としみじみ語った。
 

ブーンミ体験子ども教室
子どもたちに伝えたい、宮古の宝


下地会長の指導に目をキラキラさせる子どもたち

 平良教室(下地正子・神里佐千子室長)は、今年七月から十一月にかけて、毎週一回「ブーンミ体験こども教室」を開催した。まず、最初に完成品の着物を見せた上で、それから麻畑で実際に植物として生えている麻を刈り取り、糸になるまでの工程を説明した。中には親子での参加もあり若い母親たちが真剣に取り組んだという。
 畑では麻刈りから始めるが、中にはかまを使ったことのない子どもたちもいた。一・五bまでに伸びた麻を刈り取り、葉を落として表皮をはぐ。水に二時間ほど浸し、時々水を掛けてあく抜きをする。それからアワビ(ミミ貝)を表皮の内側にあて不純物をはぎ落とし繊維を取り出す。
 取り出した糸は陰干しにして、それから糸績みに入る。糸績みは繊維を細かく裂き結び目をつくらずにつないでいく技術で長時間の根気が要る作業。それから、よりを掛け、最後に経木(カシギー)という道具を使って糸の長さを整える。ここまでの工程を講師の熱心な指導で行っていく。子どもたちは目をきらきらさせながら、講師の説明に食い入る。
 下地会長は「子どもたちに、麻という自然にある草が宮古上布という国の宝に生まれ変わる。その不思議さを知らせるとともに、自分の島を誇れる材料にしてほしい」と話す。参加した子どもたちは、実際に麻の表皮からアワビで繊維をはぎ取り、糸を取り出す作業に「できた、できた」と歓声を上げ「これが魔法の草なんだ」と目を輝かせていた。

 



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