スローフードライフを再び

主婦らを中心に研究会が発足

 最近、とみにいわれるスローフードな生活。決して新しいライフスタイルではなく、むしろ以前の生活に返って食を見直そうという世界的な動きだ。手軽にできるファーストフードの対語。四十年前から欧米化した食生活の影響で日本人のライフスタイルが大きく変わり、身体や精神に変化を及ぼしているという警告が食品衛生にかかわる多くの学者からなされている。沖縄も復帰後、急速に欧米化の食生活が入り込み、それまでカフツ(家庭菜園)を中心に行われてきた食文化が大きく変わった。トゥナラ(アキノノゲシ)のあえ物や青パパイアのいため物、ジュズモ(土のり)の小豆イリチャーなどは昔の料理として遠くに追いやられてきた。今、そうした伝統料理を見直そうと宮古島スローフード研究会が発足した。提唱者は同会の会長でもある、郷土料理の第一人者・津嘉山千代さん(下地与那覇在住、民宿経営)。六月八日に民宿・津嘉山荘で行われた発足会には市内の主婦ら三十八人が参加、その関心の高さを示している。

 




班長会に1品持ち寄り、次回定例会のメニューを
夜が更けるまで話し合う

提唱者の津嘉山会長

班長会に一品持ちより
 伝統的な食文化をゆっくり楽しむ生活習慣がスローフードライフ。イタリアで生まれた。伝統的な食材を使った料理を見直し、質の良い素材を提供する小生産者を守る中で、子供を含む消費者に「食育」を促すことなどを指針とする。津嘉山会長は、奄美沖縄スローフード協会の会員でもあり、同圏内での研究会発足は二番目。これまでスローフードを実践してきた津嘉山会長にとってこれまでの生活の延長となるが、これからは地域に広げる役目を担った。
 発足後、二週間目の六月二十二日の夜、津嘉山荘で班長会があり、四人の役員で次回定例会の話し合いを行った。城辺の狩俣幸枝さん、平良の上地政子さん、下地昌江さんは、この日も、郷土料理の一品持ち寄りで参加した。テーブルには津嘉山会長の料理を含め、七品がそろった。トゥナラとトマトの和風サラダ、青パパイアのいため物、追い込み漁で取れた雑魚の煮込み、ジュズモの小豆イリチャー、在来キュウリを使ったあえ物など。市販のだしの素を使わず、かつお節や煮干を使った料理は素朴で懐かしい味を醸していた。

パパイアを食材に10品のメニュー
 毎月八日と決めた定例会。この日は各自持ち寄った料理を食べながら、次回七月八日のメニューを検討した。まず、パパイアをテーマに話し合う。パパイアの実、葉、茎を使い切ってどんなメニューができるかを考える。葉は乾燥してお茶に、茎はみそでもんで煮付けに、実は皮ごと使って昆布や小豆といためる、千切りで固ゆでした実を梅みそであえる、パパイア漬物を使ってちらしずしを、最後は完熟パパイアのデザートなど、あっという間に十品のメニューがそろった。津嘉山会長は「同じ食材でも十人が作れば十品できる。みんなで作り、みんなで盛り上げ、みんなが先生」と会の目指す方向を示す。

津嘉山会長がスローフードに行き着いた訳
 津嘉山会長がスローフードな食に行き着くには、それなりの訳があった。六歳のころ、母親を亡くし、幼少から家事を手伝わされたことも生活力を身に付ける大きな要因となった。若いころは沖縄本島に出て生活、郷里の男性と結婚するが、間もなくがんを患い、一度納まったかに思えた病は再発するなど二度の大きな手術を体験する。そうしたことがきっかけで、それまで肉食が主だった食生活を、身体にいい食事に心掛けるようになった。
 沖縄本島での暮らしにピリオドを打ったのは、義父のたっての願いからだった。宮古に帰って来たもののやることがなく、生きがい探しをしているうちに、自然にたどり着いたのが「農家民宿」だった。もう、十三年になる。

10人集まれば10通りの食べ方
 津嘉山会長はこうした言葉が生まれないうちからスローフードを実践していたのだった。「頭を切り替えたら、島に自生している雑草も食べられる野菜に変わるんだよね。もちろん、農薬は使われていないし、安全、安い、いや、ただ。あとはおいしく食べるには時間と工夫だけだね」。その手の話は尽きない。発足から、まだ一月もたたないのに入会したいという電話が鳴り続けているという。津嘉山会長は「会員になるのに何の規定もないし、誰でも受け入れる。一つの食材も十人集まれば十通りの食べ方があるし、みんなで一緒に勉強していきたい」と両手を広げる。 
 パパイアをテーマにした話し合いは煮詰まり、津嘉山会長を囲む三人の班長は、これからの活動に話題が発展する。「食と環境問題は切っても切り離せないので、毎月の例会には、マイはし、マイ皿、マイコップを持参しよう」と会長が言うと、「楽しくやっていきたいから、エプロンのファッションショーとか」と上地さん。「一品持ちよりで畑でカラオケ大会なんかも」と狩俣さん。笑いの絶えない班長会となった。

最後に
 最近の食の傾向として、「身土不二」「地産地消」、そしてスローフードなど原点への見直しがいわれている。食の問題があらゆる社会問題に波及していることにみんなが気付き始めた。津嘉山会長も紹介されている「スローフードな日本」の著者・島村菜津さんは「スローフードな食卓は、親と子をつなぎ、都市と農山漁村をつなぎ、人と自然をつなぐ。破綻しかけている人類と地球との関係は今、かつて経験したことのない岐路に立たされているのかも知れない。だからこそ、スローフードな食卓の親和力こそが頼りなのだ」と後書きに記している。


郷土料理アラカルト
ツルムラサキと豆腐のあえ物 しょうゆ味 ニガウリ、スイゼンジナ、卵、煮干の和え物
 ゆずドレッシングで
在来キュウリのあえ物
 昆布、ニンジン、シイタケを入れ、みりん、しょうゆを煮詰めてかける。最後に酢で引き締める
ジュズモ(土のり)
 小豆、かつお節を入れて、しょうゆとみりんで
雑魚の煮付け
 しょうゆ味で
パパイアのいため物
 ニンジン、ニラ、カツオ節をオリーブ油で
トゥナラのあえ物
 トマトとタマネギ、ツナと合わせてしょうゆ味で
 




 

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