市場は市民の活力の場
「人が集まってくるだけで儲(もう)けさ

ぱり直送
 

 市場の朝は早い。朝日とともに人と物が動く。平良にある下里公設市場は四十年余の歴史があり、当時からアキャーダ(行商)として野菜や海産物を売るおばさんたちが今でも現役として軒を並べている。サマーパラソルを開き、チルダイ(商品棚)を設置したら、もう店舗の出来上がり。そこに、生産農家の皆さんが次々と新鮮な野菜を持ち込んできて品ぞろえをすると、待ちかねたようにお客さんが立ち並ぶ。そこはもう売り手と買い手を越えて親しい会話の弾む社交場となる。
 このごろ、地産地消ということばをよく耳にする。行政用語のようだが、市場はまさにその地産地消。昨年暮れごろから、島の方々で直売店が生まれている。大きなもので、昨年十二月にオープンしたJAのあたらす市、今年一月には平良松原の国道390号バイパス通りにワイドー市場宮古島が誕生した。いずれも、農家が直接出荷した野菜や加工食品を委託販売するというもの。値段も農家が全て決める仕組み。毎日、ぱり(畑)直送の新鮮な農産物が店頭に並び、中間コストを省いた安い価格が消費者を喜ばせている。小さな直売店も村や町でお目見え、生産範囲内で思い思いの品ぞろえをし消費者とのやり取りを楽しんでいる。
 

 

 

   


 通りに面して鉢物などの商品があふれ、涼しそうなヨシズが人目を引く

オキナワ宮古市場
 こうしたムードを作り出したのが、オキナワ宮古市場の社長・玉元武司さん。七年前、市場通りでテント小屋からスタートした店は現在、宮古警島察署通りに素店舗を開設、涼しそうなよしずが人目を引いている。百業者が参加し、農産物、食料加工品、花木の鉢物など地元で生産されたあらゆる物を取り扱う。午前六時から午後九時までの営業時間で十人の従業員が一日のローテーションを組んで勤務する。ここでしか買えないものもあり、購買者と家族的な雰囲気を結んでいる。
 玉元社長は「物を売ろうと思ったら売れない。人を喜ばせようと思った途端に物が動く。リスクを背負わなければ商売はできない。市場のおばさんたちに教えられた。人が集まってくるだけでもうけさあ、と」。午前五時、一番に出勤するのは玉元社長。まず、トイレの掃除をしてから通りの清掃、それから品物の段取りをする。通りの植栽升にコスモスを植え付けたのも社長。今ではパナサキ通り会となっている。
 一年前には払い下げのバス一台を買い付け、事務所にして新たな事業を展開。航空券、各種催し物のチケット販売の仲介をネットで始めた。その名も株式会社「オゴエ」。若者たちが生き生きと働いている。「とにかく、お客さんの喜ぶ顔がみたいから」と、何事にもひたむきだ。
 


            季節の野菜がどっさり並ぶ

JAあたらす市
 郡農協時代の旧会館を利用したオープンスペースには、ぱり直送の野菜の数々が並び、鉢物、食料加工品、宮古和牛まである。午前九時から午後七時までの営業で、昼時と夕方が最も込む。主婦に混じって居酒屋の店長さんもいる。地元の食材をよく知っている人たちだ。地元の生産農家百五十人が加入している。商品には農家の名前が記載されていて、消費者にとってまさに生産者の見える関係。
 五月八日のゴーヤーの日には、ニガウリ一本を五十八円で販売、チビっ子たちのゴーヤー争奪戦も行うなど、地域と密着した関係を構築。企画担当の米田隆己さんは「いろんな日をとらえて、イベントを打っていきたい。母の日には花市を行い、先着五十人様に花のプレゼントを行い喜ばれた。六月にはスイカ割りを予定しています。生産者と消費者が楽しんで参加できるそんな市場にしていきたい。また、子供たちの学習の場にしようと、あまり見掛けないキャベツの花やアスパラガスの花を写真で拡大展示して見てもらっています」と、意欲満々。

 生産者の顔が見える農作物が所狭しと並んでいる

 生産と直売を楽しむ。左から上原信子さん、
                   砂川慶子さん

 「自分で作った物は自分で売りたい」と新城さん


ワイドー市場宮古島
 今年一月にオープン、マックスバリュ南店の駐車場東側に黄色い壁の目立つ鉄骨プレハブ。まさに太陽の恵みいっぱいのぱり直送青野菜や果物、苗木、食料加工品などが並ぶ。営業時間は午前九時から午後七時まで。約百六十の農家が登録し、名前の入ったバーコードで値段を記載、生産者の顔が見える。珍しい野菜があることでも知られ、午後からは居酒屋の経営者たちも品定めに立ち寄る。
 店長の平良寛明さんは、「とにかく、安全で安心が基本。会員さんには有機農法を徹底してもらっています。それから、健康野菜の掘り起こしということで、昔の野菜を奨励しています。例えば、フダンソウとか、スベリヒユとか。レシピも今風にアレンジして口頭で教えたりします。これから、夏場の葉野菜をどう確保しようかということで、壮青年部と情報交換をしているところです。島全体の島興しを想定に入れて日夜、人と物と格闘しています。


ウナトウ直売店
 上野新里線に黄色の看板、矢印に添って行くと、道路右側に十坪ほどのプレハブ。五組の夫婦で今年二月からスタートした。それぞれで作った農作物を持ち寄るので、毎日は続かない。販売日を金・土・日とした。営業時間は午前十一時から午後六時。訪ねた時、店内は三人の妻たちが楽しそうに店番をしていた。形のいいトウガンやヘチマが並ぶ。いかに大事に栽培されたかが、その色つや、形から伝わってくる。
 その中の一人、砂川慶子さんは東京都の出身。四年前にUターンした夫の元へ、一年前に来た。「最初、あまりに寂しくて何度帰ろうかと思ったかしれない。でも、皆さんと一緒に野菜作りをして希望が持てました。心の通う友だちができてほんとにうれしい」と日焼けした健康そうな顔に笑みがこぼれる。また砂川ふき子さんは「将来はメンテナンスも考えてみそや加工品などの生ものも扱えるようにしていきたいと、みんなで話しているんですよ」と今後の展望を語る。


北海岸通りの直売店
 北海岸の一周道路、新城海岸入り口に大きな文字で直売店の看板。牛の堆肥(たいひ)小屋を多少手直しして立派な店舗にした。入るとご夫婦が、迎えてくれる。新城輝夫さん・悦子さんだ。スイカやメロンの苗、カボチャ、ニガウリなどが並ぶ。輝夫さんが牛を飼いながら、今年の一月から始めた。一周道路に面しているため主に観光客が利用してくれるという。
 輝夫さんは「昔ながらの農業をもう一度やってみようと思って始めた。これまでバイヤーを通じてメロンを出荷していたが、仲介人のいる農業は面白くないことに気が付いた。自分で作ったものは自分で売っていこうと。これからの宮古島は長寿と健康と観光がキーワードになる。有機農法で元気な野菜をたくさん作って、みんなに買ってもらいます。でも、お店の名前がまだなんですよ。子供たちと一緒に今考えているところなんですが」と大らかに笑う。

     

 


 

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