続・花は島いろ

「宮古の精神文化を大事に」

沖縄研究奨励賞を受賞した

上原 孝三(こうぞう)さん (48歳)
 
(平良市西里出身)

 【那覇支局】「宮古島西原の祭祀(さいし)の世界を追いかけ、人々の精神世界をありのままに記録に残したかった。30年かけて研究してきたことが評価されたと思う」
 先月、沖縄協会の第26回沖縄研究奨励賞を受賞した上原さん。研究テーマは「沖縄の歌謡と民俗の研究」。宮古と他島との祭祀事例とを比較考察し、特に沖縄各地の神祭りの核心部にある「籠(こ)もり」の秘儀を明らかにしたことが高い評価を得た。
 1976年に琉球大学に入学。先輩に誘われて方言研究クラブに入部したのを契機に、生地西原の方言を調べ始めた。大学の卒論では西原独自の民謡を扱った。大学、大学院を修了して86年から沖縄尚学高校教諭となるが、その傍らで休日を利用して宮古を訪れ、祭祀を調べてきた。
 祭祀研究は全琉球において困難さがあり、上原さんは「70−80年代においても、調査と聞くだけでシャットアウトされ、神女は口をつぐんで話さなかった。宮古でも各地でそういう状況だった」と振り返り、「西原は同じ里の人間で知り合っていたので、私の調査にできる限り応じてくれた。みんなの協力に感謝している」と話す。
 西原の御嶽(ウタキ)で行われるユーグムイ(夜籠もり)は、いわゆる聖地籠もり。極めて厳粛な儀礼で、聖なる時間・空間がそこに現出される。このユーグムイを調査させてもらうまでに10年の歳月を要したという。
 「西原に30年通ったことで一般の学者が分からないことも分かることができた。祭りは、祭りそのものだけでなく、人間関係の繁栄でもある」と見る。ナナムイ(神女集団)は46−57歳の女性が入ることになっているが、西原の祭りは年間100日はかかるので、この間の生活をどうするかが問題。嫁、姑、子供、いろいろな事情が絡む。ツカサ(高位の神女)になると、役割が重くなり、炊事、洗濯などが夫の手に移ることもあり、夫の理解がないと離婚問題にまでも発展するという。「神祭りは人間の日常もセットに考えないととらえきれない。すっと通り過ぎて半年では見えない部分がかなりある」
 時代の流れ、社会の変化の中で、「祭りがだんだん変わり、宮古の人間が変わりつつある。昔の風景がどんどん消えていく」と危惧する面もあり、「御嶽には宮古の精神文化がある。それを残していかないとならない」と力を込める。「すべて昔が良かったと言うのではないが、良いものは残していかないとならない。無くしてほしくないのは昔の人が語ってきた心。地域社会で声を掛け合い、相手を思いやり、共に生きてゆくことは大事」と語る。
 宮古研究について、「理想は各字(あざ)に1人研究者がいること。宮古の原点を見直し、バトンタッチしていけたらいい」と願った。

 上原 孝三(うえはら・こうぞう) 1956(昭和31)年12月25日生まれ。平良市西原出身。首里高、琉球大学文学科国文学専攻卒。法政大学大学院人文科学研究科日本文学専攻修了。86年4月沖縄尚学高校教諭に採用、現在に至る。92年から12年間、琉球大学非常勤講師も務めた。研究論文に「宮古島西原のユーグムイ歌謡について」、「宮古島西原の『竜宮願い』」など多数。93年沖縄文化協会賞(仲原善忠賞)受賞。05年1月沖縄協会沖縄研究奨励賞受賞。趣味は散策、旅行。妻の長子さん=那覇市出身=との間に1男2女。
                                                    (編集局・川満幸弘)

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