子供俳句年間賞/選・山田 弘子 2007/03/16掲載


 

 宮古毎日新聞の企画「宮古毎日子ども俳句」の年間賞選考がこのほど行われ、大賞に久貝巧真君(佐良浜中三年)の「夕暮れの空を支える鷹柱」が選ばれた。
 優秀賞には、ふくざとまひろ君(城辺小一年)の「おばあちゃんうんどうかいはっするはっする」、本村慧さん(鏡原小三年)の「セミさんにおつかれさんと声かける」、垣花愛海さん(平良中三年)の「台風でみんな飛んでく行方不明」、上里一成君(翔南高校一年)の「炎天下影を求める旅人よ」、垣花圭亮君(宮古農林高校一年)の「真夜中の牛の鳴き声島の夏」の五点が選ばれた。
 選者は「宮古毎日子ども俳句」の選者、山田弘子氏。
 表彰は今月二十九日午前十時からカママ嶺公園で開かれる「春休み子ども吟行会」の開会式で行われる。


年間賞選考を終えて/
選者・山田弘子
 一年を通し、数多くの俳句の選考に関わっている私ですが、この「宮古島子ども俳句」の年間賞の選考ほど胸がおどり、感動し、迷い、そしてつらかったことはありません。一年間を通し特選で選んだ作品はもちろん、その他多くの入選作品一つ一つどれもに作者の顔が見えてくるのです。日本の将来をになう子どもたちに俳句を通して自然の美しさと大切さを知って頂きたいというのは私のみならず多くの大人たちの願いなのです。今年の年間賞を選びながら、こうした大人たちの願いがしっかりと子どもの心に根付いていることを確信出来た気がします。俳句はすばらしい、まさにそれを実感しながら選ばせていただいた今年の年間賞です。この選のほかにも
 おたまじゃくし足をだそうとふんばってる  南小ニ たいら りょう
 きびたおしおじいもぼくもずぶぬれだ  城辺小ニ いけま たかき
 夕焼けにみとれて時間見失う  平良中一 長浜咲弥香

など、落とすに忍びない素晴らしい作品がありました。
どうかこれからも、人間も自然の一部なんだという気持ちで俳句に向き合って下さい。そしてあなたたちの未来がそして地球がどれほど大切かを忘れないでほしいと思っています。こうした素晴らしい作品に出会えるのは選者にとって言葉には尽くせない喜びなのです。

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 年間大賞
 夕暮れの空を支える鷹柱  佐良浜中学校三年 久貝 巧真
〈評〉鷹の渡りの中継点として宮古島群島はよく知られていますが、土地の人々にとって鷹への想いというのは特別のものがあるようです。久貝君は毎年のように鷹の飛来を観察しているのでしょう。鷹柱というのは鷹がまるで柱のように縦に群れる様をいいます。「夕暮れの空を支える」という表現の見事さによって、鷹と大空の大きな空間が描き出され迫力のある作品となりました。

 年間優秀賞
 おばあちゃんうんどうかいはっするはっする  城辺小学校一年 ふくざと まひろ 
〈評〉さいしょにこの作品に出あったときの感動を忘れられません。運動会で競技に出てくれたおばあちゃんでしょうか。「おばあちゃん」「うんどうかい」「はっするはっする」という三つのことばをならべただけですが、それらをまひろ君の心もちがつないでいます。かんどうをそのままことばにすることの力をしっかりとみせてくれました。がんばっているおばあちゃんのひょうじょうもおうえんするまひろ君の姿も見えてきます。

 せみさんにおつかれさんと声かける  鏡原小学校三年 本村 けい
〈評〉暑い島の夏は朝早くから蝉の鳴声が聞こえますね。今年は草蝉が一月には鳴いたというニュースがありました。けいさんは一日中ミーンミーンと鳴き続けているそんな蝉に思わず「おつかれさん」と声を掛けたというのです。なんとやさしい心でしょう。蝉は幼虫の間七年も地の中で過ごし、やっと地上に出ると僅か二週間ほどで死んでしまうのですね。そんなこともよく知っているからこんな句がうまれたのでしょうね。

 台風でみんな飛んでく行方不明  平良中学校三年 垣花 愛海
〈評〉台風シーズンになると私は天気図から目が離せません。台風の進路が宮古島を外れてくれますようにと祈るような気持ちです。でも年に何度かは台風がやって来て、島の皆さんも心構えが出来ている様ですね。この句は台風真っ只中の窓の外を見ながら、看板やダンボールや木々までが吹き飛んでいく様を直視しています。「みんな飛んでく」で終わらず下五に「行方不明」ということばをつけることによって、台風のすごさを想像させると共に、心の底まで覗かせている、一味違った作品となりました。
 
 炎天下影を求める旅人よ  翔南高等学校一年 上里 一成
〈評〉夏の日中は四十度近くまで気温が上昇する南の島。だからこそ、いろいろな惠みもまた授かっています。しかし旅人にとっては過酷な「炎天」です。くらくらするような太陽の下で、木陰や建物の影などを求めて旅を続けているのです。上里君はそんな様をしっかり写生し、旅人に語りかけるように詠んでいます。「影を求める旅人よ」という表現にはなにか古典的な味わいまで出ていて、俳句の姿の素晴らしさが発揮されています。

 真夜中の牛の鳴き声島の夏  宮古農林高等学校一年 垣花 圭亮
〈評〉高校生ともなると、俳句というものがこんなに完成度が高くなるのかと、この句にも感心しました。そしてなによりも作者の生活圏に牛が共存していて、真夜中のそのなき声に心を留めて一句にしているのです。昼間ならうっかり気づかずに過ぎるような出来事が真夜中の静寂の中だからこそ生れた一句でしょう。どの家も開放的な島の夏の風景も見えてきます。「島の夏」の下五が大きな働きをしています。農林高校の作者にとって牛はひとしお身近な存在なのかもしれませんね。頼もしい限りです。

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