衝撃から1年 (上)

 雨戸の重要性再認識強化ガラスやフィルムの需要増加

凶器と化した窓ガラス 】

 「寝室の窓ガラスが割れ、兄と必死になって部屋にあったベッドでふさいだ。もう二度とあんな怖い思いはしたくない」―。台風14号の恐怖を体験した城辺町内の女性(31)はそう振り返った。公共施設をはじめ、病院、宮古空港管制塔、民家など至る所で窓ガラスが強風で割れ、破片で負傷するなどの被害が相次いだ。ほとんどの建物で設置されている窓ガラス。被害に遭った施設や住民の防災意識はどのように変化し、またどのような対策を施しているのだろうか。

 平良市東仲宗根添にある宮古島リハビリ温泉病院(奥原典一理事長)では強化ガラス数10枚が割れ、そこから吹き込んだ風雨が天井を破壊、医療機器も使用不能になった。さらに、割れたガラスの破片などで入院患者11人、職員16人が負傷した。
 台風後、施設内の窓ガラスをすべて取り替え。強化ガラス2枚の間に割れたガラスの飛散を防止するフィルムもはさんだ「特殊強化ガラス」を使用。鉄パイプが当たってもひび割れしない頑丈さだ。特に被害の大きかった場所には金網、防護ネットを張り万全を期した。災害復旧費と災害対策費、合わせて3億円余り掛かったという。
 奥原理事長は「入院患者の快適さや安全が第一。人の手でやれることはすべてやった」。

 平良市西里にある自動車販売店では、新車、中古車合わせて50台近くが被害を受けた。経営者の男性(53)は「もうすべてが終わりかと思った。目の前が真っ暗になった」と当時を振り返る。以降、対策には万全を期すようになったという。飛来物から店舗を守るため、ガラス張りのショーウインドーには防護ネットも張った。もちろん、強化ガラスへの張り替えもしている。しかし、「相手は自然だから…これでも安全かは分からない」と不安気だ。

 台風14号襲来後、一躍注目を浴びたのが雨戸の役割だ。
 平良市内のアルミ業者によると、アルミ製の雨戸は、通常の「掃き出し窓」で価格は8−10万円程度。同社では「これまではぜいたく品というイメージが強かった上、家屋の外観を重視するため敬遠されがちだったと思う。お年寄りはサラ、コラ、デラを思い出し、若い人たちでも台風の恐ろしさを知ったそのことが需要の増加につながっていると思う」と分析する。台風前に比べると需要は10倍以上で、設置工事など社員がフル回転しても追いつかない状況だという。

 一方、雨戸に比較して約3分の1程度の費用で済むフィルムも人気だ。外観が通常の窓ガラスと全く変わらず、張るだけで強度が上がり、割れても破片は飛び散らない。台風時以外でも防犯面や、紫外線を99%カットするという性質も兼ね備えているため好評で、宮古空港の一部でも使用されているという。市内の取り扱い業者は「購入する客の理由はさまざまだが、共通しているのは皆、安心したいという気持ち」と説明する。

 3年前、大阪府から宮古島に移住してきたという女性(32)は台風14号後に上野村内にペンションと飲食店を兼ねた住居を建設。近日中に迫ったオープンを控え、開店準備に追われている。「雨戸は汚れやすいし管理に手間がかかる」と言う女性の住居や店舗には雨戸は設置されていない。ただ、計画段階で設計士と相談し、窓ガラスを支えるアルミサッシで強度を上げているという。
 先のアルミ業者、フィルム業者ともに「窓ガラスは割れるという前提を持ってほしい」と呼び掛ける。「コストや手間など対策法は人それぞれ。大切なのは台風の怖さを忘れないこと」と警鐘を鳴らす。
(福里賢矢記者)

 写真説明・昨年の台風14号の強風で粉々となった店舗のショーウインドー

■メモ 県板ガラス事業協同組合(那覇市、當眞英男理事長)によると、県外では通常、民家などの窓ガラスは厚さ3−4ミリのガラスが用いられるが、宮古を含む県内では台風を考慮し、約1−2ミリ程度厚い5−6ミリが使用されている。ガラスにはたわむ性質があり、強風を受けても割れにくいが、物が倒れてきたり飛んできたりするケースは例外。

 

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