ぺん遊ぺん楽

 
サンゴ礁保全の「助長」

イメージ先行型環境貢献の落とし穴


梶原 健次

<2003年
 12/23掲載>
 助長という言葉は、苗の成長を助けようと引っ張って根を抜いてしまったという故事からきていて、本来の意味は、不要な助力をしてかえって物事をダメにしたり、良くない傾向を強めてしまうことです(辞書によると必ずしも悪い意味で使うとは限らないようですが)。
 今、あらゆる分野で人間が努力して環境の回復・維持を図る必要に迫られていますが、荒廃したサンゴ礁の回復を促進する目的で、サンゴの移植が研究されています。サンゴは動物なのですが、一部を折り取って別の場所に固定してやると、まさしく樹木の挿し木移植のように増やすことが可能です。最近では環境貢献をしたいという観光客のニーズ(?)に応える「サンゴの移植ツアー」をニュースなどで見るようになりました。ダイビングで海に潜るときに、スタッフが用意した移植用のサンゴ片を岩盤などに固定しようというものです。
 私の個人的な考えでは、サンゴの移植に真っ向から反対こそしませんが、注意を要する事業だと考えています。サンゴの移植という考え方はもう十年以上前からあるのですが、残念ながら未だに試行錯誤の段階です。数多くの研究事例は、移植の成否を左右する要因が非常に多く、大規模な移植事業がかえって残されたサンゴ群集をかく乱・衰退させる危険性があることを示しています。
 一般的な移植を考えた場合、移植用のサンゴ片を既存のサンゴ群集から採集してくる必要があります。採取にあたっては沖縄県漁業調整規則に基づいて、県知事の特別採捕許可が必要ですが、許可をもらっていても、慎重な採取でなければサンゴ片の元である母群集を死滅に追いやる可能性があります。
 どんな種類のサンゴを移植するのかも重要な課題です。サンゴ礁生態系は種の多様性が極めて高いことが特徴で、沖縄のサンゴだけでも三六〇種類以上が知られています。限られた種類を多量に移植しても、種の多様性を下げる結果になります。また限られた場所から移植片を採取した場合、遺伝的多様性も下げてしまい、近親交配的環境をつくり出すことにもなります。
 サンゴをどこに移植するのかも大きな問題です。移植を必要とする海域は、何らかの理由でサンゴが生育できない、あるいは生育できなくなった海域です。サンゴの生育に適した環境に変わっていることを十分確認した上で移植しなければ、貴重な移植片は無駄死にとなります。
 最も危惧されるのは「環境」の看板の裏で密漁が行われる危険性です。天然から採捕したサンゴを移植用に短期間飼育したり、海面を漂う受精卵や幼生を集めて養殖する方法も考えられていますが、これが隠れみのとなって販売される可能性は否定できません。いったん流通経路に出されてしまうと、それが沖縄の海から密漁されたものか否かの区別がつきません。
 環境貢献しているつもりが、自己満足に終始した「助長」になることは誰も望まないと思います。環境関連事業はイメージが先行しがちですが、行政・研究者・事業者がきちんとした移植の計画と検証のシステムを構築することが必要です。
(宮古ペンクラブ会員・平良市栽培漁業センター) top.gif (811 バイト)